7月18日
さまよえる人間−2.食と病の文明

"こうして牛が切り殺されたとき、多くの神々と祖霊たちは
「不法だ」、と叫んだ。
昔は欲求と飢餓と老衰という三種類と病気しかなかったのだが、
家畜を殺すようになると、98種の病気がはじまった"
                 「スッタニパータ」
この経典が生まれたのは、いまから2500年以上前のインドの大地に
ブッダが歩いていた時代でした。

このブッダの直観力は見事としかいいようがありません。
今日の私たちの時代の病気の多様さは驚くべきものです。
数年前、ヨーロッパで狂牛病が流行したとき人々は牛肉を食べることを控えて
ラクダの肉を食べた、といわれました。
ラクダの肉が危険なら、次は何を食べるのでしょうか?
人間の思考は何を食べるかによって決定される、ということの
影の部分が、今、表出しようとしています。

ブッダと同時代を生きたジャイナ教の開祖・マハーヴィーナはこのように言っています。
「羊の干し肉をパリパリカリカリと腹の膨れるほど食べて
さぁ、いったい何を得たのか?
血管を流れる血液か、きっと地獄へ行くぐらいが関の山だ。」
ジャイナ教徒は今日でもインドの地のみに推定300万人ほどいます。
彼らは食に関しては非常に厳格で、
肉食をしないのはもちろんですが、
野菜でも土の下に宿る根菜類は食べないといいます。

厳格な行者は常に白い布地のマスクで口を覆い
空中の微生物を口中に吸い込まないように
しているのです。
ジャイナ教徒は農業に従事できないので
(地中の虫を殺すので)、
宝石商や金融業を営む人が多く、インド経済の中心的な人物が多くいると言われています。
このような宗教が2500年以上に渡って続いてきたという事実は驚くべきことです。

「貧しさを文化にできない国は、いずれ滅んでいくだろう」、と述懐したのは
先端学問である分子生物学の草分け・渡辺格※です。
慎んで聞かねばならない奥の深い言葉です。



※渡辺 格(わたなべ・いたる)
1916(大正5)年、島根県生まれ。東京帝国大学理学部化学科卒業。東京大学教授(理工学研究所、理学部生物化学科)、京都大学教授(ウイルス研究所)、慶応義塾大学教授(分子生物学)を経て、慶応義塾大学名誉教授。理博・医博。著書は多数。専門は、DNA、RNA、ウイルス等の分子生物学、生命科学、バイオテクノロジー。日本におけるこれらの分野の先達者であり指導者である。

(次回は23日の更新予定です)

>>さまよえる人間−1.アジア型思考様態



囲む人々「一話一言」

疋田千秀「さまよえる人間」

「おもろい坊主を囲む人々」でつなぐ、一話一言。
日ごろのことを思いつくままに、気軽に書いていただきました。

第1回は、北茨城・佛等庵の疋田千秀さん。
タイやスリランカでの出家経験を持つ疋田さんから見た
最近の日本や世界の情勢を、落ち着いた目で描いていただきました。

全8話を順次、お届けします。