センレック赤血球の宇宙旅行 〜地球編〜

 

新連載はナゾのペンネーム「センレック赤血球」がかく、
大きなタイトルで些細なことを描きます。
ついに「あの人」が、久々の登場!


第十三号: 刺身定食の高いほう」

 

ついこのあいだの週末の夜、
気持ちよくデートをしている真っ最中にケータイが鳴った。
悪い知らせに決まっていると直感し無視していたら、
なんと藤川和尚からだった。
的中だ。
衰えぬ自分の勘の鋭さに感心しつつも、
「あの音はニシキヘビに違いない」と事前予測できても
自己防衛できる手立ては穴に隠れるくらいしか出来なかった、
勘のあるカエルの虚しさに似た虚脱感でそのけータイに出た。

「最近会ってへんから、おまえのホッペタでもねぶらせてくれ。」(直訳)と
地獄からの不合格通知よりも不気味なセリフが向こう側から聞こえた。
地鳴りと深い耳鳴りが目の前の景色を霞ませたのだった。

気が付けば2日後、藤川和尚が日本領事館から出てくる姿を
ピックアップするところだ。
時刻は午前11時。
午後から食事が取れない和尚にとっては、
今日最後の食事の時間だ。
どうしてこんな和尚にとって絶好のチャンスの時間に会う約束をしたのか、、、
恐らくあの耳鳴りで上手くやりこめられたのだろう。

今回は絶対に相手のペースに負けないよう、
飯は安物の麺類でも食べに行くか、と心に決めた。
にも関わらずいつのまにか「ここ、高いでぇ、ええんかぁ?」という
和尚の強い歩みに負けて入ったところが、
料亭風の日本食レストランだ。
空間の中に大きな池があって、鯉が泳いでいるではないか。
ヤバイ。。。
何が何でも「きつねうどん」で和尚を納得させんことには、
連敗に次ぐ連敗で、センレックのペースはめっちゃくちゃになるのだ。
しかし、そんな思い虚しく、和尚はメニューを開くと、即決で
「刺身定食の高いほう。」と注文した。
抑える隙を与えない速攻は見事だ。
その技で、バブル不動産物件を転がしてきたのだろう。

「刺身定食の高いほう」が来た。
見事な盛り合わせだ。
仏門の人間が食う代物ではない。
そのきらびやかさは、ボクのような、働き盛りに譲っていただきたい。
と怨念を和尚に投げつつ、ボクはうどんをすすっていた。
その時、あろうことか、和尚は、
「おまえのうどん、うまそうやんけ。」と暗い照明でも解るくらいの眼光で
こちらを見据えた。
ボクは両手で自分のうどんのどんぶりを差し上げるしか道は
無かったのは言うまでも無い。

和尚の食べっぷりは、仏門の心がけからは遥か遠く、
口の周りに米粒をつけながら、
サーモン2切れでライス一杯というペースで喰っている。
案の定「おかわり」とやった。。。
それではまるでラグビー部の合宿ではないか。
もしかしたら趣味でオレンジ色の布をまとっているだけの、
ただの長期観光おっさんなのかもしれない。

聞くところによると、これから長い旅に出るのだそうだ。
今回は北朝鮮という宇宙よりも遠い国へ行く様子だ。
冥土の土産にこの刺身定食が少しでも役に立ってくれれば、と思い、
いっそ気持ちよくポケットの中の持ち金、全てを
キャッシャーに置いてきたのだったが、
この和尚が、そこいらごときでくたばるワケも無く、
まだ当分は、繰り返し、このようにやり込められるのだろう。。。


<バックナンバー>
第一号 接触事故 


第二号 黄金魂(ゴールデン・ファンク)

第三号 プラチナム・プライドの葛藤

第四号 プールサイドの憂鬱

号外!!!


第五号 幾何学の虜

第六号 焼肉思索

第七号 検査結果

第八号 お掃除♪

第九号 足首骨折男

第十号 決壊と漏電の夜

第十一号 広い世界

第十二号 ベトナムの深さ