タイ社会と出家


タイでは出家することが、子供から大人になるために必要な一種の
通過儀礼的役割を担っていて、出家経験のない男性は“未熟な人”
と呼ばれ、タイ社会では一人前の男として認められず、経験者は
“成熟した人”として、一人前の男としての社会的地位を受ける事になる。

タイ社会では現代でも、出家は男子の生涯において精神的、社会的に最も
重要な出来事で、多くのエネルギーと費用をかけ準備され(結婚式以上に)、
得度式を受けるものの両親、特に母親は最も大きな功徳が積めると信じられ、
親族縁者・知人が得度式を後援し、その費用を援助する事は特に徳のある行為
と見なされている。
(タイ人比丘に出家の理由を聞くとその大半が『母親孝行のため・母に徳を
得る機会を与えるため』と答え、事実、出家式では得度者の母親が感激の
あまり泣き出す事も度々ある)

タイでは、軍人・警察官は上官・上司の承認を受ければ、
120日間(一生涯に)の出家有給休暇が認められていて、
一般企業でもその制度に準ずる企業が多くあるし、それ以外の中小企業でも、
出家のためなら仕事を放棄しても非難される事はなく、むしろ称賛され、
還俗後は僧院での道徳的・精神的訓練を高く評価され、
高い社会的地位を獲得する傾向にある。

タイ人の出家と言うのは、日本人の考えるような出家ではなく
(僧職を専門家あるいは生涯を通じた職業と意識した)還俗と密接に結びついた
もの、むしろ還俗を前提とした出家で、出家者のほとんどが二〜三週間から
三〜四ケ月で還俗し、残った比丘もその殆どが三〜五年で還俗し、
中には出家歴十〜十五年を経過した比丘でも、ある日突然にいとも簡単に
還俗して世俗の生活へ戻って行くことも稀ではない。

出家歴30年・40年の長老比丘にお聞きしても『私は最初からこんなに
長く比丘を続ける気はなかった。最初は3ケ月間だけで還俗する積もりで
出家したのだが、母親がもう一年だけ頑張れ、もう一年だけ・・・・・・
と言われ続けているうちに10年が過ぎ、今度は自分で10年も続けたの
だから、もう一年だけ頑張ってみよう・もう一年だけ・・・・・といって
いるうちに、気がついたら30年も過ぎてしまった・ワ・ハア・ハア・・・』
と笑って答えられた。

タイでは、このように出家期間の長短は別にしても、ほとんどの比丘がいずれ
還俗し、また還俗する事がむしろ当然と考えられていて、
比丘は社会からも僧職に生涯をかけることを望まれておらず、
むしろいつでも世俗の生活に戻る事が当然とされている。

特にパンサー期間(雨安居)を出家者として寺で過ごすのが、その得られる
功徳がより大きいと信じられていて、パンサー入り前の6月末〜入安入日
前日頃に出家する人が、一年でもっとも多く、民族衣装に身を包んだ美女と
楽団に囲まれ、得度式にむかう出家直前の白い衣に身を包み、蓮の花と
センコ・ローソクを両手でささげ持つ、若者を中心とした行列が各地で
多く見られるのもこの時期です。