千葉の棚田で酒米を
――酒造りオーナー体験記 IN 鴨川
■棚田って、こんなにきれいだったのか!
そもそもは、積もり積もった新聞を整理していて発見した小さな記事。
【千葉県鴨川市の大山千枚田保存会が酒造りオーナー制度を始める。
棚田で酒米の田植えや稲刈り、脱穀などに参加し、「マイ純米酒」を味わってもらう。
(中略)
「みんなで酒盛りするのが楽しみ。作業せずに飲むだけ?歓迎しますよ」と保存会の石田三示理事長。
問い合わせは・・・(以下略)】(04年3月20日・朝日新聞)
かつて銀座の日本酒センター(現・日本の酒情報館)のきき酒コーナーで
最高の位(?)である0級を取得した私(←唯一の自慢)が、
この記事に反応しないはずがない。
さっそく電話して、申込書を取り寄せた(後でわかったのだが、
当初の募集口数は100口だったが反響が大きく、枠を拡大したそう。
ちょっとタイミングがずれていたら、締め切られていたかもしれない。
しかし応募したこともすっかり忘れていた約1ヵ月後、「オーナーに決定しました」と案内が郵送され、
私はあらためて「大山千枚田保存会の酒造りオーナー制度」が、どんなものなのか確認しなくてはならなかった。
「千枚田?棚田?」・・・当初は「酒」という一文字にのみ、ひきつけられていた私。
一口1万5千円でオーナーになれば、田植えや稲刈り、オリジナルラベル作りに酒造見学などなど
おもしろそうなイベントに参加でき、蔵開きのときには1升ビン3本がもらえるという、
なんとなくお得感漂う新聞記事の情報しか持ち合わせていなかった。
肝心の棚田がどんなもので、なんで鴨川なんかでこんなことしているのか、
きちんと調べもせず申し込んでいたのだった。
送られてきた案内には「説明会のお知らせ」もある。
鴨川って遠そうだし、ああ、なんだか面倒になってきた・・・
なんてことも脳裏に浮かぶ。
考えてから応募しろ、って感じだが。
そこでインターネットで「大山千枚田」を検索してみた。
いくつかのHPを開いてみてびっくり!
なんとまあ、この風景、まるでアジア!
・・・そもそも日本はアジアなのだが、確かバリ島あたりでこんな段々になった田んぼ、みたような・・・。
ゆるやかな曲線を描く水田。
光が反射し神々しく輝く水田。
ああ、これが「棚田」かっ!
そういえば小学校の社会科で習ったなあ・・・でもこんなにきれいだったかなあ・・・などと、
HP上の輝ける棚田写真を次々くくりながら、一人コーフンしていた。
「この風景、見てみたい!」
私の心はもはや「酒」から「棚田」へと移っていた。
■熱気に包まれた説明会
説明会は4月29日。同行する相方に「棚田の素晴らしさ」を力説し、半ば強制的に連れ出した。
説明会に至るまで、つまり大山千枚田の棚田倶楽部に至るまでの道のりは、やはり遠かった。
東京方面からのおすすめルートは東京駅から1時間に1本の割合で出る長距離高速バス「アクシー号」。
約2時間で安房鴨川駅に到着する。そこからさらに路線バスに揺られて20分。
バス停「釜沼」で下車して山道を登ること15分。到着したところには、
きれいにうねった水田たちがひろびろした空間に広がっている。

ロッジ風の建物「棚田倶楽部」もなかなかりっぱだ。説明会はこの建物で行われた。
開会の挨拶につづき、NPO(特定非営利法人)大山千枚田保存会理事長の石田さんが、
今回の酒造りオーナー制度の趣旨説明について話してくれた。それをまとめると、だいたい次のような内容となる。
▼▼▼
酒造りオーナー制度は今回始めて行うもの。これまでは棚田そのもののオーナー制度を実施していた。
これがなかなかの人気で、継続希望者が多く、新規にオーナーになるのは相当の競争率をくぐりぬけなくてはならない。
ところで、鴨川とえいばシーワールドとは誰もが連想するが、内陸部の山地区には県下でもっとも高い愛宕山があり、
その裾野には連綿とした美しい棚田が広がっているという田園風景を持ち合わせている地域でもある。
その棚田を維持保全しようとして平成9年に結成されたのが、大山千枚田保存会だ。
そしてオーナー制度の運営をはじめ、さまざまな形で保全のための活動を展開している。
棚田は見る分には美しいが、実用となると、山の斜面にへばりつくように階段状に連なっているため、
機械化が進まず休耕地や荒廃地が増えている。さらに農業後継者不足や高齢化などにより、
地域だけでの保全が難しくなっている。それを補うべく、平成12年から都市部の人たちに支援を呼びかけ、
米作りに参加してもらおうと棚田オーナー制度がスタートした。酒米は通常の米と時期がずらせることから、
人気の高い棚田オーナー制度とは別に、酒造りオーナー募集に至ったのだ。

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「都市部からの人たちが手伝いに来てくれることによって、地域にはないスキルを取り入れられます。
こうしてネットワークを作り上げていきたい」と石田さんは意欲的である。
参加者多数のため、この日は午前と午後の2部に分かれての説明会で、私たちは午後の部だった。
とはいえ、会場は大勢の人で占められ、熱気ムンムン。そのほとんどは中高年者。
おそらくリタイアしたと思われる男性が多い。ご夫婦での参加も見かけた。
私たちのような若者(30代以下)はまれだ。みなさん、お酒が目的なのか、自然とのふれあいが目的なのか。
おそらくその両方が味わえるからこそ、オーナーとなったのだろう。
今後の予定は以下の通り
田植え 5月30日(日)
草取り、草刈り 6月27日(日)
稲刈り 9月23日(木)
ぐい飲み作り 10月
ラベル作り 11月
岩瀬酒造工場見学 1月
蔵開き 1月
酒は地元千葉県の岩瀬酒造という会社が作ってくださるそうだ。
それにしても今回初めてということだが、米は無事に育成するのだろうか。
もし不作だったら、お酒はどうなってしまうんだろう・・・などとコソコソ話していたら、
別の男性が同様の内容を質問してくれた。
その場合は保存会が肩代わり?となり、別の米で酒を作れるようにしているとのこと。
ほっ。
さて、一通り説明が終わったら、楽しみにしていた試飲会だ。

■ 「酒」と「棚田」がとりもつ縁
不思議なもので、人間、自分の好きなこと、興味のあることを続けていると、なるようになる。仕事もしかり。
おもしろがってやっていたり、自分が関心あることなんぞを話していると、どっからともなく、
いつの間にか、その道へ道へと招かれるというか引きずり込まれていくようだ。
ま、簡単に言えば、「類は友を呼ぶ」というようなものかもしれないが、
似たものばかりではおもしろくないので、あえて、自分とは違う世界をのぞいてみよう、なんて危険も冒したりもする。
たとえばバリキャリが集う異業種交流会なんぞに参加するとか・・・
でも結果的には、落ち着くところに落ち着く。自然になるようになる。
今回もそんな連想をしてしまううれしい偶然の出会いがあった。
この説明会の場(正確には説明会が終了し、岩瀬酒造のお酒の試飲会で)なんと、
世田谷のまちあるきの会で一緒に活動させていただいていた、絵本作家の秋山とも子さんに偶然遭遇!
会うのは実に3年ぶりくらいである。秋山さんは私をはじめ、
私ら当時30前後の独身有職女性たち(今で言う負け犬)のあこがれの的。
その秋山さんと、まさか、こんなところでお会いするなんて!
秋山さんは取材のためこれから1年間、ここ大山千枚田に通われるとか。
「酒」と「棚田」が、私たちの縁を復活させてくれたのである。ありがたや。
偶然の出会いに喜んでいたら、理事長の石田さんをはじめ、
保存会の若者や地元農家のおじさんたちの宴会の場に誘われた、
というより日本酒片手に一息ついていたおじさんたちになんとな〜く近づいていったのは私たちだったもしれない。
「まあ、飲めや、飲めや・・・・」
筍の佃煮や山菜の煮付けなどおいしそうな山の幸肴に、話しも酒も進む、進む・・・。
とうとう終バスの時間になり、3人でおじさんのトラックの荷台に乗せてもらい、バス停まで山道を下っていった。
荷台からの棚田の様子もなんと清々しいこと!
試飲会でもさんざん日本酒を飲み尽くし、さらに地元の方々との楽しい会話。
これからしばらく私たちもこの鴨川の棚田倶楽部に通うことになる。どんな楽しいことが待っているのか・・・
「酒」と「棚田」のみならず、「人」という一番おもしろい出会いの予感に次回を楽しみに鴨川を後にした。

次回、30日の田植えは都合で参加できない故、
鴨川シーワールドのシャチショーファンの守屋美和さんに参加してもらうこととなった。
次回は彼女のレポートを楽しみに!
■付録 大山千枚田マメ知識
・大山千枚田は3.2ヘクタールの広さに375枚の水田がある
・ 上段と下段の棚田は直線距離にして300m、標高差は60m
・ 今回酒米として使用するのは1反2畝
・ 30坪=100平方メートル=1反=10畝
・ 1反からは7表の米=60sの米が収穫できる