◆T.Sさんからの手紙

【1】寒くなってきました
【2】肥満についてのつれづれ
【3】クシャミと鼻血とシミとティッシュペーパーと


Hさん、

前回の「作文」を提出直後、再度藤川さんから原稿依頼がありました。
多種多様のことで物理的心理的に忙しく、
暫く“ほったらかし”にして欲しいと本音メールを出しましたところ、
同日謝罪のご返事がありました。
藤川さんの急にションボリした様子、目に見えるようでしょう?
このことを11月に帰国の際お連れした和骨董のご主人にお話したら、
普段は穏やかな方ですが、声を上げて笑ってしまわれました。
私もなんだか気持ちが落ち着かず、取り敢えず又書くことにしました。
これは、今月末に正式退職する会社の面々へ謝意を込め捧げます。
あまりきれいなお話ではないので、お食事前であれば済ませ30分後にお読みください。 

『クシャミと鼻血とシミとティッシュペーパーと』

お昼を築地のパン屋さんでいただいた。創業明治43年、 ここの看板のアンパンは掛値なしに美味しい。 現在3店舗を展開。 時折マスコミでも取り上げられることもあり認知度は十分と思われるが、 更なる宣伝強化と売上増を目指し築地・京橋界隈を数人の若者が自転車を走らせている。 自転車組にはノルマがあるから、気が向いたときにニつ三つ求める。 それ以外は本店に行く。 運が良ければ焼きたてが奥から出てくるから。 間口2メートルほどにも満たない店先の元気よい呼び込みの声と イーストの香りの誘惑に勝てずつい入ってしまう。 正午からの1時間は飲み物も無料なのも有り難い。 この日は、カレーパンを頬張っていたら、 香辛料のためか鼻がムズムズして突然の破裂音。 クシャミが小さい店内に響いた。 店員さんたちが固まった。 間髪を入れず、2発目。今度は皆の顔がくちゃくちゃになる。 私のクシャミは非常に大きい。 しょっちゅう出る。 温度差、埃、何だって反応する。 食事中、掃除機をかけている時、電車の中、図書館の閲覧室、病院での検査中、 いつでもどこでもお構いなし。 鼻の周辺だけでなく、肩、胸、体全体から響くビブラート音、 あまりに大きいので笑われる。 笑われるだけなどまだしも、録音中の音楽会などでは、 アダージョの楽章に限って特大版を噴射するので、全く身の置場がない。 ライブ録音CDでクシャミの挿入があれば、きっと私のしわざだ。 消音効果が発達するようにと祈る。 本当に肝心な時に出る。 思えば、小さい時からそうであった。 象徴的なのは、小学生当時、 月曜日の一大セレモニーである全校朝礼では毎々のお約束事。 《朝礼は、儒教・道徳の教えから来たものでしょうか、 父母の時代は修身、今は公民というのですね。 センター試験のニュースで知りました。 きっと現代においては定義・内容も相当違うはず。 朝礼はないようです。 それでは「朝礼台」というのは何と呼ばれていつのでしょう? 隔世の感。》 しかも、校長訓示のところで「ハクション」。 またか、と前後横左右の同級生、上下級生の目が恥かしくて 俯いたお河童頭にいっせいに降り注がれる。 続く怒涛の笑い、校長先生が週末練りに練った有り難いお話は台無しだ。 校長先生、遅ればせながらごめんなさい。 20余年勤めていた会社で、2番目に配属された職場は、 10mx10mほどの大部屋だった。 そこは上司と私だけの部屋が正方形の角に、 そして対角線上の端っこに会議室が設えられていた。 従って、距離にすると12メートル (算数は弱い、正確値の計算はお任せします)はあったはず。 大切な電話中にお決まりのハクション大魔王。 受話器からは反応なし。 閉めたドア越しの会議室から一挙に笑い声が風に乗って耳に聞こえてきた。 たまさか、書類を届けにきた新入社員の男子は、緊張しながらお局を目前にし、 困惑のあまり手中の紙片が小刻みに震えながら、 しかし、笑いを堪える必死さで体は捩れ顔も歪んでいる。 誠に気の毒であった。 人がクシャミを発する場面にもたびたび遭遇した。 自分のことはさておき、他人事となると何でも滑稽だ。私の選んだベスト3: No.1 本当に「ハクション・コンチクショー」と言う年配者。 これは何回聞いてもオモロイ。 何でこのような言葉が出るのだろう。 照れなのか。 周りに誰もいなくても言う人はいる。 すると、不意を衝かれたことへの自虐性?  ともあれ、オーソドックスだが不動の1位。 No.2 満員電車の中で破裂音と同時に、 たまらず中吊り広告を引っ張ってしまうサラリーマン。 破れた広告がぶらりと下がり、本人もその一部を握ったまま狼狽している。    めったにないようだが、既に2回見た光景。 NO.3 走行中に3連発するドライバー。    音が聞こえなくて動画だけの方が視覚的により面白い。    ただし、これは遠くから見ているときはいいが、隣接している車だと笑えない。    こちらに急に曲がってきて、    助手席にいた私は思わず両手をウィンドシールドの棚(呼称不明)に    掴まったりする。 2.と3.兼ね合わせても、危険に接して人間は何かに掴まるのは 本能であるという法則を発見した。 もっとオモロイのは、食欲と鼻血のせめぎ合いの中で、 綿花を鼻の穴に詰めて焼肉を食する人。 そうだ、私は鼻血も頻繁に出る。 小さな王国の「鼻血Queen」である。 クシャミは来るなと思ったら、すぐ小鼻を親指と人指指で押さえるテクニックがある、 たとえ対処が間に合わなくてもせいぜい3連発くらいで且つ一過性であるが、 こちらは予防策も見出せず、そして、被害甚大で深刻。 やはりここ一番というときに来る。 出張で飛行機と新幹線に乗り遅れたことも一度ずつあった。 成田ではピンクのExpressのステッテカーを胸に貼って貰い、 警備員さんと一緒に走ったこともある (これを貼付すると出国手続き、セキュリティチェック、全てが優先されるのですよ!) スーツケース、ハンドバックその他のものを片手で持ち、 もう一方の手で鼻を抑えながら、走るというのは曲芸に近い。 この時はまだ心臓の手術前だったから、走ると苦しくて・・・お涙頂戴もの。 冬時には一瞬ハナミズと迷う。 長年の体験から流れ来る液体の体感温度により区別できるようになった。 就寝中生暖かいものを鼻に感じて飛び起き、 それから最短30分、長期戦となると2時間はティッシュペーパーとの格闘である。 寝具類は汚れる。 やっと止まり顔を洗って鼻柱のところにちょっとでも触れたりすると仕切り直し。 何度も洋服を取り替える。 出社はいつもギリギリか遅刻、休んだことも。 9時近く会社に電話すると、すかさず「頭痛ですか、鼻血ですか?」と訊かれた。 駅まで行って帰宅する事態は何回あったろう。 3.5kmをタクシー通勤、さすがに正面玄関につけて貰うような無邪気さはなく、 数十メートル手前でこっそり降りる。 が、千葉で東京ナンバーは目立つ(辺境に住まっている)。 必ずそれでも見ている人はいて、「優雅ですね。」と云われる。 一度など、お財布に1万札しかなく、通りかかったそれほど親しくもない顔見知りに、 「お願い、2千円貸して」と叫んだことも。 唐突な依頼にキョトンとした顔を忘れない。 密かな悩みを世間に一々説明してはいられないし、 酒席での笑い話になるのもたまらない。その日はしおらしくしているほかない。 担当医に相談しても原因は不明。 だが、素人が推定するところ、毛細血管が脆い、高血圧、代償月経 (口にするのはちょっととまどう、飽くまでも医学用語です。)、 肝臓病などが絡み合っているはずで明らかに不具合には違いない。 でも、怪我で出血している訳ではないのだから、体のメカニズム調整であって、 不要な排出物と思う。 今夢中で読んでいる「医学の歴史」 (医療関係者でなくとも読み応えあり。梶田昭著、講談社) で真っ先に当項目を探したが、見つからない。 代わりに「褒むべき膿」という一項あり、化膿の必要性をガリノスという 古代学者が唱える説は、 鼻血にも当てはまると都合よく解釈することにした。 要らない血でも放っておいたらどの位出るのだろうと 一度試しに紙コップで計量したことがある。 長時間じっとしていないといけないので、結構手持ち無沙汰なのだ。 だから、そんな奇抜なアイディアと行動が出る。200cc位だった。 しかし、これは献血には使えまい。 複数の耳鼻科で何回も硝酸やレーザーで鼻奥の毛細血管を焼いて貰っているが、 「気休めですよ」とドクターもおっしゃるとおり、 それで暫くはいいけれど必ず復活、頻度は減らない。 血の気(というよりも鉄分)が多いのであれば、瀉血もなどと思ったりもするが、 いつも貧血気味でぐるぐるしているからダメ。 それなのに、鉄分の入ったドリンク剤を腰に手を当て飲んでみたりもする。 なんたる矛盾だ。 重要なプレゼンを控えて一時凌ぎに「ボクサーが使う止血剤を欲しい」とお願いしたら 劇薬で持続作用がないからダメだと軽くいなされた。 今日夕方BS放送を見ていたら、 “World Strongest Man”というマッチョな男性が勢ぞろいして トラックを引っぱったり、オードバイ2台を抱えて走ったりする無垢な番組があった。 鉄製の樽を乗せたリアカーを持ち上げる競技で、 参加者の一人が上に挙げたとたんにスーと一筋の鼻血を流した。 真正面だったので、クールメディアと云われるTVでもなかなかリアルであった。 初めてのこと、不如意なことには誰しもうろたえるものだが、 反復学習により冷静に対処できるようになる。自分自身もそうだが、 職場の仲間たちももう慣れっこ、 事が起きるとティッシュを持つ手がひとつふたつ伸びてくる。 コーヒーもよくこぼした。両隣の人は雑巾を家から持ってきてくれていて、 有事への守備体制もしっかり。 誰も彼も優しかったなあ。 独身者の少なくなった会社で愛い奴と思っていたひとつ年下の男性がいた。 立ち話をしているときに事態が一変。 端正な麗人だってブーなら興ざめもの。 平均的美形(?)の私が鼻血を出したらそりゃ醜悪だ。 「キタネエ女だな〜」と飛び退いた。 それ以来、彼とは 「同居者がいると公団に入居し易いから、住民票貸してくれる、Gnちゃん」 &「いいですよ、Sさん」、 「じゃ、お返しに一回くらい戸籍に入ってあげようか、Gnちゃん」 &「たかが紙一枚のことじゃないですか、Sさん」という 楽しい会話は交わすことはなくなった。 ホンマの恋人にそれを話したら、「ちっとも。あなたのものは何だってきたなくない。」 と真顔で慰めてくれた。 泪がこぼれた。 愛情とはそんなもの(であった)。 Women never sweat, they perspire; Ladies just glow. ?オーソン・ウェルズ。 (和訳するとつまらなくなるのでこのままで。) 女心を知り尽くしている人だ。 働く者にとっては楽しい昼食。 ひとたび事が起こるとバタバタする。 どんなにか不快感を与えたろう。 そのうえ左効きのためか不器用なのか何かに取り付かれているのか、 お箸を上手に使えず専らフォークを使用。それでも食べ物をボロボロこぼす。 鼻血、お醤油、ワイン、修正液で私の洋服はどれもいろいろ模様付き。 呆れた同僚達を前に「シミだらけの人生よ」と開き直る。 新しくできた洗濯屋さんに冬物を1ダースくらい持ち込んだところ、 かなり細かいチェック、 「ここのシミは何ですか?ここのは?ここのは?」と大声で尋問され、 シミ取りの可否が懇切に説明された。 以後そこには行かなくなった。よって、絹や麻のブラウスは使い捨て。 水洗い可能の素材しか着ない。 御手洗でジャブジャブ、乾燥器(手用)の前に立って2-3分待てばハイOK。 逆境でそれなりの知恵を授けてくれる神様と 驚異のポリエステルの発明者には感謝を禁じえない。 ところで、血液型判断とか占いとかは何の根拠があるのだろう。 知る限り、日本しかやらない。 自分の血液型を知らないので、聞かれても応えられず、 「あなたの唾液のPH濃度は?」と質問されているようでもあり、 失礼だと一蹴していた。 何よりもこうだと決め付けられるのは人間ができてないから、大キライだ。 言葉にしなくても雰囲気を読み取ればいいのに、 何度も同じ質問する執拗な輩には、本気で蹴りを入れてあげたい。 そうしたところで、おそらくその機微が分らない人には分るまい。 あるとき、社員名簿を更新するための用紙が配布された。 顔写真の隣に「氏名」「誕生日」「趣味」「血液型」等々の記入欄があった。 最後の欄は“ビタミンC型”と誤魔化して提出したら人事から電話があって困るという。 お偉方にはつまらないことでもムキになって反抗したが、 担当者を泣かせないのが私の主義。 いずれ年配者は去り、同僚・後輩にお世話になることを多分に予測していたからだろう。 納得しないながらも、やむなく早退けして近所の医院で採血の結果、A型と判明。 翌日の課内日誌に「驚いた、BかOでないとおかしい」というコメントと その横に正の字のうち、下の棒が一本引かれてないのが付記されている。 賛同者が4人ということ?  A型は几帳面、Bはマイペース、Oは鷹揚、ABは偏屈/頭脳明晰というのが 一般的であるということをその時知った。 なるほどと思う節もあり、私のこの占いへの疑問が揺らぐ。 ティッシュペーパーは必需品。 一消費者の私見にすぎないが、大抵の日本製のものは素晴らしい。 この分野にも研究家はいて、何かの雑誌で国産品をトップに挙げていた。 その中でも、ホテル・○○クラで使っているものが最良らしい。 それで、近く行くときには必ずそのホテルのゆったりした化粧室に寄ってみる。 特に紙質は他との違いはないように思う。次に米国製。 ヨーロッパものはちょっと。 そして、発展途上国(中国をそう呼ぶには気が引けるが、ここでは含む)では、 事前に擦らずに使ったりすると、皮膚が剥がれるほどのシロモノにも出会うものだ。 地元の人はそれでもいいのだろう。 ティッシュなどみたことがない地域だって、世界にはたくさんあるはずだ。 その人たちにどこの国のがいいとか、どのブランドが最高といってもラチがあくまい。 いつかそんな所に自分用として10箱くらい持って出向いてみたい。 懇願されても、絶対あげないと心に誓う。 琵琶湖のブラックバスやブッシュマンの下着のように、 異質のものが入ってくると相応の被害や悲劇も生まれるに違いないから、 たとえ善意でも撒き散らしてはいけない。 でも、鼻血を垂らす人に遭ったら1箱進呈しよう。 素晴らしい友情の幕開けになるかも。 とにかく、私のティッシュの消費量は半端じゃない。 3箱使うなどざらである。 現都知事は「弟」の中で、肝臓ガン末期にあった裕次郎さんは 毎日鼻血が出てその都度2箱使ったそうで同情の念を述べている。 ご遺族には申し訳ないが、誰もが憧れた裕ちゃん (随分先輩のスーパースターだけど、享年は今の私と同い歳、 一年限定でそう呼びたい。彼は大人だった。)に親近感を覚える。 使用後はすっかり重くなる。ゴミ出しも困り果てる。 自宅ではともかく、ホテルなどでは気を使う。 分別の仕事をしている人は、 殺人事件でもあったのかと誤解するのではないかとひやひやし、少しずつ処理する。 ポケット型は駅前などで配布しているが、 反射的に受取る人、不快さを顔に表して拒否する人、2個下さいという人、様々。 私は有り難く頂戴する。 アルバイト生たちだって、配布数が少なければ叱られるのだ。 受取ると「ありがとうございます。」と言ってくださる。 私の調査では、池袋駅前の配布密度は高い。 裏側にスポンサー名が書いてある。 最近の傾向として、消費者金融は姿を消し、 代わって居酒屋、パチンコ店、英会話教室そして美容室が主流である。 時々大手銀行などのキャンペーンもあるから不思議だ。 あの宣伝効果はどうなのだろう。 手元にあるパチンコ店のキャッチコピーは「明日本気?マジの日です」。 そそられる。片や、クーポンが付いた美容室にはさっぱり気持ちが傾かない。 さて、くだんのパン屋さんでは、愛嬌のある30代半ばのお兄チャンに向かって、 取り繕いのくだくだした弁明をした。 「僕も花粉症なので、よく出るんですよ」 「あれは辛いんでしょ。今年は対前年13倍ですってね。  ところで、私の持ち株○○発酵の薬、何か買ってね。  地味な会社だけど、いい研究開発していて、扱っている商品も良いのだから。」 「ああ、その会社の人には箱根でお酒をご馳走になったことがある。  僕、買います。」 ユーモア・センスのある人だ。優しさはその経験値だ。清涼感。 そのせいか、3年間塩漬け状態にある同社の株価の終値は10円高。 実におぞましく情けない話。ソチコチに飛ぶのは私の常、お疲れがでませんよう。 私自身はもうこれで次なる原稿依頼はないと安堵感でいっぱいです。 Hさん、人はどれほど血と涙と汗を流せば極楽浄土に辿り着けるのでしょうか。 幕。



検索で来た方はこちらへ